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函館地方裁判所 昭和38年(行)1号 判決 1963年11月15日

原告 家久博

被告 北海道知事

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三六年一二月二六日別紙目録記載(一)の土地につきなした買収処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

(一)  別紙目録記載(一)の土地を含む同(二)の土地は、もと訴外前川利秋の所有であつたが、同人は昭和三五年五月三一日右土地を訴外酒井光雄に譲渡し、原告は同年七月二〇日右酒井から右土地を買受け、所有権を取得し即日所有権移転登記を経由した。

(二)  ところで、函館市農業委員会は右土地のうち別紙記載(一)の土地(以下本件土地という)につき、農地法第一五条により国が買収すべき土地であるとして被告に買収の進達をなし、被告は昭和三六年一二月二六日本件土地について買収令書を発行した。しかしながら、本件土地は右酒井においてブルトーザーで地ならしして宅地に変換され現況宅地となつているものであつて何ら耕作の事業に供されていないもので原告は函館市農地委員会の非農地証明書に基づいてこれの所有権を取得したものであるから、被告が本件土地につきなした買収処分は違法である。

(三)  そこで、原告は右買収処分につき、昭和三七年一月三一日農林大臣に対し訴願したが三箇月を経過しても裁決がないので本訴に及んだ。なお右買収令書はいまだ原告に交付されてはいないが、原告は本件土地の所有者であるので、右買収処分は原告に対しなされたものというべきである。

被告指定代理人は、本案前の申立として、主文同旨の判決を求め、その理由として、原告は本件土地を訴外酒井光雄から買受けその所有権を取得したと主張するけれども、本件土地は農地であつて原告は右所有権取得につき、農地法による北海道知事の許可を受けていないのであるから、右売買は無効であつて本件土地の所有権を取得するものではなく、かつ、原告に対して、本件土地買収処分をしたものでもないし、買収令書を交付したものでもないから被告が本件土地につきなした買収処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有せず本訴を提起する適格を欠き、本件訴は不適法で却下を免れないと述べ、本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として原告主張の(一)の事実中原告がその主張のように所有権移転登記を経由したことは認めるがその余は不知、同(二)の事実中、函館市農業委員会がその主張のように買収の進達をなし、被告がその主張の買収令書を発行したことはあるが、それは本件土地の所有者である前川利秋を相手方とし、昭和三七年一月八日同人に買収令書を交付して本件土地の買収処分をなしたものであり、原告を相手方として買収処分をなしたものではない。本件土地が宅地であつて、農地でないとの原告主張事実は否認すると述べた。

理由

原告が本件土地につきその主張のように所有権取得登記を経由し、登記名義人であることは被告も認めて争わないところであるけれども、被告が本件土地につきなした本件土地買収処分について、買収令書が原告に交付されていないことは原告の自認するところであり、右買収処分は訴外前川利秋に対してなされたもので原告を相手方としてなされたものではないことが弁論の全趣旨において明らかであるから原告は被告が本件土地につき前川利秋に対してなした買収処分の取消を求めるにつき、法律上の利益を有する者とはいえない。原告は本件土地の所有者であると主張し、これに基づいて本訴を提起しているのであるが前川利秋の登記簿上の所有名義人の地位の喪失が効力あるもので、かつ実質上の所有者でなくなつていたとすれば、同人を相手方としてなされた本件土地買収処分は法律上当然無効であると解せられるのみならず、原告が実質上の本件土地所有者でその登記名義人であるとすれば、仮りに右買収処分がなされたとしても、原告は右所有権を喪失するものではなく、右買収処分自体により法律上何らの不利益を受けるものでもない。結局原告の本件訴は不適法として却下を免れない。よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 長利正己 大西勝也 菅原晴郎)

(別紙目録省略)

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